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<title>Story</title>
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<description>物語をぽつぽつと。。</description>
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<title>西日本武道高校・健闘記⑥　　　ｂｙ 夜白木</title>
<description> 第６話『表と裏』一瞬、目の前が真っ暗になった。先程の面を打たれた時と同じ感覚。ぐらりと視界が揺らぐ、あの感じ。次におとずれたのは白い空間。周囲の音は一切聞こえず、自分一人だけがそこに立っているような虚無の世界。ふいに痛みがはしり、俺は自分の身体を見つめた。致命傷だ。見た限り何処にも傷は見当たらない。だが、頭のどこかで理解はしていた。痛むのは頭ではない。心臓の少し上あたり、胸がどうしようもなく痛い。
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<![CDATA[ 第６話『表と裏』<br /><br /><br /><br /><br />一瞬、目の前が真っ暗になった。<br />先程の面を打たれた時と同じ感覚。ぐらりと視界が揺らぐ、あの感じ。<br /><br />次におとずれたのは白い空間。<br />周囲の音は一切聞こえず、自分一人だけがそこに立っているような虚無の世界。<br />ふいに痛みがはしり、俺は自分の身体を見つめた。<br /><br />致命傷だ。<br /><br />見た限り何処にも傷は見当たらない。だが、頭のどこかで理解はしていた。<br />痛むのは頭ではない。心臓の少し上あたり、胸がどうしようもなく痛い。<br />『俺たち、付き合ってるんだ』<br />先程の言葉が頭に浮かび我に返ると、壮田が変わらず俺を睨んでいた。<br />だからどうして、それをわざわざ俺に言うんだ。理由はわかっているがそれでもやはり言いたいことはあるというものだ。<br />「そうなのか？」<br />「ああ」<br />「彼女、さっき試合を見てましたっつって俺にコレをくれたぜ？」<br />もらった一輪の花をふる。<br />「おしとやかで落ち着いてて。可愛いな、彼女」<br /><br />――――――――――――――――あ。<br />ぽつりとこぼれた言葉に反応したのはどちらが先か。<br />気付けば壮田の顔は噴火間近。<br />ぶるぶると拳を震わせながらも手を出さないのはスポーツマンとしての意地か、はたまた彼の我慢強さゆえか。<br /><br /><br />結局人声が近づいてきたところで会話は終了。壮田は阿佐加を捜しに行き、その場は事なきを得た。<br />だが俺は今まで自分でも全く気付いていなかった自分の性格を発見してしまったことに、頭を抱えてしゃがみ込んだ。<br />うわーうわーうわー。<br />俺ってとてつもなく天邪鬼だったんだな！<br />先程の己の台詞を振り返って、顔がとても熱くなる。<br />ああいう言葉はもう少し控えめにしてでも亜佐加に言うべきだろう。何でまた壮田に言ってしまったのか。考えれば考えるほど自分の行動が理解できない。<br />「…何やってんだろうな」<br />冷静になろうと呟く台詞は、周囲で見ている者がいたらきっと同じことを思っているだろうと確信できた。<br /><br /><br />その日の彼について、あらゆるところで噂が流れていた。<br />彼について。変わったところはないか？<br />証言その一、通り過がりの男子生徒。<br />「ああ、あいつなら普段通りに恰好つけてたぜっ。<br />──何、いつもと違う？知らねえよ。喋ったこともないんだから」<br />証言その二、彼の友人。<br />「うーん挙動不審、まではいかないか。でも、近いな」<br />証言その三、校門前の女生徒たち。<br />「ご挨拶をしても元気がないようで…心配です」<br />「いつものあのはにかんだような微かな笑顔が見られなくて残念だわ」<br />「私の王子様が…」<br />彼女らの頭の中で多少なりとも想像が一人歩きしている部分も少し見受けられなくもないが。<br /><br /><br />「ぜーったい変よね、沖本君」<br /><br />その言葉を本人を目の前にして突き付けることが出来る女生徒は、校内で彼女一人だけだと思われる。<br />「直球だな。今朝のふざけた証言取ったのお前だろ、伊藤」<br />呆れた沖本（本人）の声なんてものともしない。<br />彼女は伊藤紗耶香（いとうさやか）。報道部所属で、主に校内新聞を手掛けている。<br />今朝の噂の出所は彼女の作成したささやかな号外である。<br />活動的に見える肩より上のショートカットの髪を揺らし、にっこりと笑む。<br />その意は、肯定。<br /><br />「なかなか面白かったぜ？」<br />「そりゃそうだろうな、証言その二」<br />「あ、バレた？」<br />楽しそうに会話に参加した裕也はあっさりと笑う。<br />何だって俺の周りにはこんなのがいるんだ。<br />大概の場合、女生徒達からは黄色い歓声、男子生徒からは羨望や嫉妬の眼差しを向けられる。そこから友人への発展は難しい。<br />その壁を崩している二人、一癖や二癖はあってもおかしくはない。<br />──が、だ。<br />昨日とはまた別の意味で頭を抱えたくなる。<br /><br /><br />「ん？何処か行くのか？」<br />「もうすぐ授業始まるわよー」<br />急に立ち上がると二人からのんびりとした声が掛かる。<br />「ああ」<br />頷きふらりと教室を出る。それ以上追ってくる声はない。<br />なんだかんだ、その空気は心地良いと感じていたりもする。<br />始業前の廊下は人通りも少ない。<br />しんと静まったそこを悠々と歩く。当然、相棒は手の中に収まっている。<br />ふと、そういえば荘田と顔を合わせていないことに気付いた。<br />それとともにまた別の事も思い出して、素振りをするつもりで裏庭に向けていた足を方向転換をする。<br />向かうは独特の空気を持つ、気に入りの場所。<br />今朝は綺麗に晴れていた。<br />古（いにしえ）の空気に触れつつ、過去と同じであろう空を見て思いを馳せるのもまた楽しそうだ。<br /><br /><br /><br />誰かが来るかもしれない。<br />そう、期待をしている訳ではない。決して。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> ]]>
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<dc:subject>西日本武道高校</dc:subject>
<dc:date>2009-03-11T23:15:50+09:00</dc:date>
<dc:creator>７３５・９３</dc:creator>
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<title>西日本武道高校・健闘記 ⑤　　　ｂｙ albino_kppe</title>
<description> 第５話『斬りきざめぬ想い』「よし、かかってこい」　俺がそういうと、道場の中が一気に冷えこむのがわかる。　俺は目を鋭くすがめたまま、招くように竹刀をかまえる。芯に１本鉄のとおった、剣のイメージ。　いつも、こうして始まるのだ。練習を一足飛びに超えた、真剣ではできない実戦を想定した剣の乱舞。　殺気を辺り一帯に撒き散らすと、反応する個体がわかる。　声もなく。　１年坊の男子が斬りこんできた。俺は横に大きく振
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<![CDATA[ 第５話『斬りきざめぬ想い』<br /><br /><br /><br />「よし、かかってこい」<br />　俺がそういうと、道場の中が一気に冷えこむのがわかる。<br />　俺は目を鋭くすがめたまま、招くように竹刀をかまえる。芯に１本鉄のとおった、剣のイメージ。<br />　いつも、こうして始まるのだ。練習を一足飛びに超えた、真剣ではできない実戦を想定した剣の乱舞。<br />　殺気を辺り一帯に撒き散らすと、反応する個体がわかる。<br />　声もなく。<br />　１年坊の男子が斬りこんできた。俺は横に大きく振って薙ぎ払う。<br />　１年坊がつんのめって倒れた。「死体」になったら後退だ。後は道場の隅でひざを抱え、生存者の戦いを見つめる。<br />　３人が、いっぺんに俺に斬りかかってきた。つわものには、大勢でかかった方が得策なのだ。俺は冷静に３人のふところに飛びこむ。<br />　と共に１人を突き倒した。刺さらぬ竹刀から、遠く後方へ突き飛んだ。<br />　次に体をひねって対空攻撃を仕掛ける。頭上に浮かび上がる男子生徒。こいつは、１年は組だ。<br />　阿佐加と同じクラスの……。<br />　かすかに彼女の顔が視界に浮かぶ。ぎりりと、柄を掴む手に力が入り、腕を強く振った。剣術と茶道をたしなむ男子生徒が地に落ちた。<br />　さらに襲いくる剣士を、返す刃で斬り上げる。あとからあとから。剣を持った覆面道着の部員たちが飛びかかってくる。<br />　俺は混じり乱れる剣風の中、考えていた。<br />　――俺に、恋愛などする資格があるのだろうか？<br />　３年生の巨体が倒れる。あちこちから、竹刀を鋭く打ちすえる音と、歓声が遠く聞こえる。<br />　俺は、剣に生きようとする人間だ。それだけでも大きな力を得ようと。<br />　それなのに、恋愛の幸せを求めてしまっていいんだろうか。それは罪悪ではないのか。ストイックに、剣の道だけを目指すべきではないのか。愛されるような人間なんだろうか。<br />　苛立ちが爆発したように、剣を振りかざす。刺し、貫き、斬って斬って、迫りくる何かを追い払おうとする。<br />　そうだ、俺は、自信なんてまるでない。こうして多くの者を剣で倒していても。ただ剣だけが俺の中で圧倒的に正しい、確かに輝くものだから、縋っているんだ。俺は誰よりも弱いから、剣がないと生きていられない。<br />　皆が俺をとやかく言う。王子様とか、優等生の御曹司とか。違うんだと叫びたくなる。そんな目で俺を見るな。時折、逃げ出して自分の世界に入ってしまいたいと思う。剣を抜いて。自分の見目が美しいというなら、こんな容姿斬って捨ててやりたいと思う。幻想をもって俺に近づいてくる女子は、脅威以外の何者でもない。<br />　昔、中学校の校舎裏で、俺は女子に呼び出された。男女問わず人気で、生徒会長をしている才媛だった。バレンタインの日、彼女の手の中には、大きな濃いピンクのハートのクッションと、たぶんチョコレートがあった。<br />　そして、赤く潤む目でまっすぐに俺をとらえ、その句を告げた。こういうのが特に一番苦手だ。遠目から笑って騒いでくれている方がまだ嬉しい。<br />　痛いほどに突き刺さってくる輝くような目線を、俺は逸らすことしかできない。まっすぐにぶつかってくる純粋な好意。それを受け取る準備が、俺にはないんだ。そして相手を傷つけることしかできない。昔から、そして今も。<br />　そんなんじゃないんだ、俺は。ただ怖いんだ。本当の俺はこんなに弱いのに。だから、女子にいろいろ言われる度にイライラして、教室の隅で自分の殻に閉じこもっているんだ。<br />　一体、君らは俺の何を見て、好きだなんて言うんだ。そんなこと軽々しく言っちゃいけないんだ。<br />　それは、揺れる霧みたいにあいまいで、不純物や切ない思いや、宝石なんかが混じった、大切なものなんだ。<br />　だから、剣の道に集中するために、俺はこの学校に来た。<br />　なのになんで、俺はこんなことに戸惑ってるんだ！？<br />　あの日。<br />　古書室で、あの子がまっすぐ俺の目に飛びこんできた。<br />　１年は組、阿佐加友美。茶道科。<br />　どうしていいのかわからない。八方ふさがりだ。途方に暮れる。<br />　『そんなこと言ってっから女ができねぇんだよ』と裕也に笑われた。<br />　裕也……。そういえば、さっきはいつもの流れで思わず普通に話してしまったが、昨日のはどうだったんだろう。あの後、大丈夫だったんだろうか、彼は……。<br />　そこまで考えて、俺は目の前の敵が、もうあとただ１人だけであるのに気づいた。<br />　３年生の主将、剛腕の、熊のような厚い体。鋭い眼光が、矢のように強く注がれる。<br />　ああ、これなら。斬れる。そのはずだ。<br />　俺は床を蹴って跳んだ。<br />　間合いを一気に詰めて、剣をしならせる。心臓がどくんと動くだけの一瞬だ。恐ろしく冗長に感じる。俺が空を裂くように刃を走らせ、敵が剣を打ち下ろす。<br />　突如ぐらりと、視界が揺れた。空間を大きく揺るがす衝撃が走った。<br />　俺は、頭を剣でかち割られていた。見事な、面、だ。竹刀が俺の覆面の上で、まっすぐ打ちつけられている。俺はあっけにとられたまま、硬い床に倒れた。<br /><br />　くそうっ！<br />　俺は毒づきながら、水道の蛇口から水を頭にかぶった。<br />　道場のとなりにある水飲み場だ。道場の中では、もう平穏ないつもの練習風景が戻っていた。顧問の先生の、指導し慣れた声が響いてくる。<br />　道着を着崩して、タオルで強く頭をかく。ふと顔を上げると遠く、道場の窓近くで、女子たちが大勢騒いでいた。<br />　あれだけの人が見る中、俺は負けたのか。<br />　今日はだめだ。何をやっても上手くいかない。いいことだってありもしない。<br />　そう遠い生徒たちに背を向けて、中庭の方へ一歩踏み出した時、目の前に、花を抱えた女子生徒が立っていた。<br />　緑の制服に流れる長い黒髪。しっとりとした色香に、品のあるまなざし。<br />　阿佐加、友美、サン、だ……。<br />　彼女が、優しげな微笑をたたえて、近づいてくる。<br />「見てました」<br />　俺は嬉しさと気恥ずかしさで、顔が一気に熱くなった。<br />　なんでこんな？　ああそれより、なんて奇麗な瞳なんだろう。<br />「沖本、健太、さん？」<br />　小首をかしげて訊くように呼ばれて、俺はびくりと肩が上がっちまう。<br />　だって彼女が、俺の名前を呼んでくれたから。<br />「どうぞ、これ。捨ててしまうのも忍びないから」<br />　華道部のお手伝いに出た帰りなんです、と彼女は、花一輪、俺に向けて差し出した。<br />　淡いピンクの花びらが、俺の胸に広がる。<br />　ああ、俺は、この子に恋をしてもいいんだ。<br />　普通の、人間になってもいいんだ。<br />　俺は、この子を、好きなんだ。<br />　この子に俺のことを理解してもらえたら、どんなに嬉しいだろう。<br />　思った一瞬ののち、俺は恐ろしいことに気づいた。普通の人間になる？　剣士でもない、ただの弱い俺に？　特別な剣士から、ただの人間になり下がる。恋にうつつを抜かして、やるべきことを失ってしまうのか？　気づいてしまうと、それはとても恐ろしいことに思えた。<br />　そうだ今は、こんなことをしてる場合じゃない。<br />「ああ、じゃあ、もったいねえもんな。道場で花瓶にでも挿しとくわ」<br />　俺はぷいと顔をそむけ、花瓶をさがすふりをしながら、彼女の反応の気配をさぐった。<br />　彼女はおろおろと困ったように、声をかけてきた。<br />「あ、あの、古書室で、さがしていた本なんですけど……」<br />「ああ、古書室の……」<br />　俺はやっとのことで振り向き、彼女の、誰よりも可愛く見える顔を見つめた。<br />「あそこは俺の場所なんだ。じゃあな」<br />　その彼女の表情が、一瞬固まった。 あ、<br />　俺は、泣くかと思った。<br />　いたたまれなくなって、背を向けて駆けだした。花を握りしめたまま。走る足で、道場の奥へ回り、裏庭の方へ向かう。その茂みの中へ。<br />　なにをやってるんだ俺は！！！<br />　ほんとは、『ありがとう、すごくうれしいよ』、<br />　『俺はいつもあそこにいるから会いにきてくれ』、<br />　そう言いたかったんじゃないのか！<br />　俺は頭を抱えて裏庭の茂みに座りこんだ。もう自己嫌悪だ。<br />　木々の風は優しく、俺の体をくすぐってくれる。剣を持たない俺は、どうしようもなく、貧弱だ。<br />　ふいに、庭の脇の木々がざわつき、巨体の熱い気配が現れた。俺は顔を上げ、身構える。思わず腰の剣へ手をやったが、手は空をつかんだ。<br />「よう、沖本」<br />　現れたのは、野球部の、エース、壮田流星だった。<br />　クラスメイトの、阿佐加を想う人。なんでこいつがここにいるんだ。俺は立ち上がって、対峙した。<br />　彼は鋭い眼で、俺の手の中の花を睨みつけた。まるで彼の投げる剛速球のような。<br />「阿佐加を見たか？」<br />「ああ、さっき……」<br />　俺は口ごもる。<br />　荘田が、言った。<br />「俺たち、付き合ってるんだ」<br /><br />　　　　　　　　　　　 －つづく－ ]]>
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<dc:subject>西日本武道高校</dc:subject>
<dc:date>2008-08-10T10:50:59+09:00</dc:date>
<dc:creator>７３５・９３</dc:creator>
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<title>西日本武道高校・健闘記 ④　　　ｂｙ 夜白木</title>
<description> 第４話　『彼の天気は曇り空』既に陽が傾ききった午後。スポーツやその他様々な（・・・）用途で使えるようにと広いグラウンドで、彼ら野球部は練習をしていた。聞こえるのは掛け声と、硬いボールの音。ボールが真っ直ぐにキャッチャーのミットへと吸い込まれて──いくのをバットが遮った。キィンと音がして、ボールがみるみる離れていく。「走れ！」「回れ回れ！」チーム内から声が上がる。バッターボックスに立っていた彼は、軽や
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<![CDATA[ 第４話　『彼の天気は曇り空』<br /><br /><br /><br />既に陽が傾ききった午後。<br />スポーツやその他<ruby><rb>様々な</rb><rp>（</rp><rt>・・・</rt><rp>）</rp></ruby>用途で使えるようにと広いグラウンドで、彼ら野球部は練習をしていた。<br />聞こえるのは掛け声と、硬いボールの音。<br />ボールが真っ直ぐにキャッチャーのミットへと吸い込まれて──いくのをバットが遮った。<br />キィンと音がして、ボールがみるみる離れていく。<br /><br />「走れ！」<br />「回れ回れ！」<br /><br />チーム内から声が上がる。バッターボックスに立っていた彼は、軽やかに走った。<br />１塁、２塁、３塁と回ったところでホームベースにボールが返ってくる。<br />タイミングは走者がスライディングをしたのとほぼ同時。<br />周囲が結果を見守る中、審判が手を挙げて宣言した。<br /><br />「アウト！」<br />「まだまだ甘いな、流星」<br /><br />中継に入ったピッチャーが誇らしげに言う。<br /><br />「次はどうかわからないですけどね」<br /><br />判定の差は数秒。<br />チーム内からも野次が飛ぶ。<br /><br />「そうだぞ、ピッチャー。後輩に簡単に打たれてどうするんだ」<br />「ま、まぐれだまぐれ！」<br /><br /><br /><br />放課後のグラウンド。<br />それは教室の窓からでも見ることが出来た。<br />ぼーっと見ているのはクラスメイトの彼。昨日阿佐加と一緒にいた――。<br />──って何で俺はそんな事を気にしてるんだよ。頭を振って考えを消去する。<br /><br />「何を見てたか当ててやろうか」<br />「わっ、裕也！何だよいきなり」<br />「んー？珍しく放課後まで残ってるからさ」<br /><br />廊下の女子が騒いでた、と裕也。どうやらぼーっと外を眺めているのを、逆に眺められていたらしい。<br />だがその事実を聞いてしまったところで、反応に困る。どうしろっていうんだ。<br /><br />「沖本、剣道部に行かなくていいのか？」<br />「……………あー、忘れてた」<br /><br />通りで、珍しいと言われるはずだ。<br />授業は気分次第でよくサボるが、部活の練習は真面目に出ることにしている。<br />これが俺のやりたい事だし、自他共に認められる実績もある。<br /><br /><br />急いで袴に着替えるべく、剣道場へと向かう。<br />部活を忘れるなんて本当にどうかしている。<br /><br />「何を見てたか当てましょうか」<br />「うわっまた裕也…じゃないですね、糸先生」<br />「彼も皆に人気ね。授業も真面目に出ていて、成績はそこそこ優秀。少し生意気だけど、むしろそんなところが可愛いのよね」<br />「…何の話ですか？」<br />「見てたのでしょう？」<br />「だから何を「壮田、流星」」<br /><br />言いながら彼女の瞳は好奇心に光っている。それを見てとって、即座に否定した。<br /><br />「見てませんよ」<br /><br />遊ばれてなるものか。<br /><br />「あらそう？貴方の視線の行方は女生徒達の話題の中心だったけれど」<br />「気のせいです」<br /><br />顔を笑ませて言い切って、ぺこりと頭を下げた。いい加減に練習に出なければ。<br />…逃げるが勝ちともいうかもしれない。<br />正直なところ、追及されるのはごめんだ。自分でもよくわからないものを聞かれて答えられるはずがない。<br />見てた人物は何人もが言う彼、クラスメイトの壮田流星が正解。<br />だがその理由を知る者は恐らくいまい。彼を見ていた張本人も含めて。<br />茶道部の阿佐加と一緒にいるのを見て気になった。<br />ただ、それだけ。嫉妬ではない、と思う。数日前に出会ったばかりでそんな感情も何もないだろう。<br />そう思いたい。でも。<br /><br /><br />「あーわかんねぇ!!」<br />「どうした、沖？」<br />「今日は荒れてますね、沖先輩」<br /><br />袴に着替え、気合いを入れたはずなのにどうも集中できない。<br /><br />「隙あり!面!!」<br /><br />声とともに眼前に竹刀が迫ってきたことにはっとなり、咄嗟にその竹刀をはらって逆に相手の面を打つ。<br />打たれた相手はぽかんとしていた。<br /><br />「沖先輩、もしかして今の隙はわざとですかぁ？」<br />「いや、反射的に身体が動いた」<br />「おお、お前らもそうなるくらいに練習しろよー」<br /><br />顧問の教師が他の生徒に向かって言うのが聞こえた。<br /><br /><br /><br />もうちょい続きそう…<br /> ]]>
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<dc:date>2008-03-15T11:30:53+09:00</dc:date>
<dc:creator>７３５・９３</dc:creator>
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<title>西日本武道高校・健闘記 ③　</title>
<description> 第３話『恋の病の診断書』　その時。　ミニスカートで、胸元もあらわにかがんだ糸真弓先生が、強い瞳で俺を射った。　俺はびくっと肩を揺らし、思わず後ろの机に飛び退ってしまった。ガタガタと音をたて、クラスメイトの机達が崩れる。「……」　みんなが俺を見ている。何だコイツは？　あのクールな沖本か？　と言わんばかりに。　俺だって一番混乱してる。何なんだ。この事態は何だ。　真弓先生は姿勢よく立ちあがって、俺を見据え
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<![CDATA[ 第３話『恋の病の診断書』<br /><br /><br /><br />　その時。<br />　ミニスカートで、胸元もあらわにかがんだ糸真弓先生が、強い瞳で俺を射った。<br />　俺はびくっと肩を揺らし、思わず後ろの机に飛び退ってしまった。ガタガタと音をたて、クラスメイトの机達が崩れる。<br />「……」<br />　みんなが俺を見ている。何だコイツは？　あのクールな沖本か？　と言わんばかりに。<br />　俺だって一番混乱してる。何なんだ。この事態は何だ。<br />　真弓先生は姿勢よく立ちあがって、俺を見据えたまま優雅に近づく。俺の名札にチラリと目をやる。<br />「沖本、君？　あとで保健室にいらっしゃい」<br />　冷汗が流れる。なんだ、俺、悪者かよ。<br />「あなたが斬ったボールの流れ弾でクラスメイトが失神したのよ？　心配でしょ」<br />　彼女はふふ、と意味深な笑いを残し、ラベンダーの香りを放つ髪をなびかせ……そして、ゆうに１，８メートルは超える倒れた男子を騎士のごとく抱え上げ、教室を出て行った。<br />　皆、どうしたものか、一様に硬直していた。白昼夢のような呪縛から最初に抜け出たのは、裕也だった。<br />「大丈夫かよ」<br />　笑いながら、手を差し出されて、俺は引き起こされる。<br />「あ、ああ……俺は……」<br />　ばつが悪くて、目を伏せてきょろきょろと、俺は挙動不審になる。裕也は歪んだ机を俊敏に直しながら、面白くてたまらないといった風で、俺にジャニーズアイドル級の笑顔を向ける。<br />「お前、ウブいのな」<br /><br />　午前の授業は退屈な座学だった。けれど、昔の忍の武器についての授業だから、俺も裕也も出ている。先生の解説が経文のように朗々と、耳に心地よく響く。<br />　俺はぼんやりとしたまなこで、斜め２つ後ろの席の、裕也の方を見る。<br />　すると彼は、存外に真剣な面持ちで、目を凝らして黒板を見、ノートにペンを走らせていた。<br />　彼――野上裕也は、甲賀の忍術を細々と受け継ぐ総家の一人息子らしい。跡取りなのかとか、そういったことはよく知らない。だが、その重みは俺もよく知っている。<br />　こいつとだけは、できれば本気で戦いたくないと思う。<br />　暗殺器具や罠の仕掛けは巧みで、体術も相当な速さと技術を持っている。背丈はそれほどないが、俊敏で幻惑性に富んだ闘い方は、あまりの華麗さに見る者の陶酔を誘う程だ。<br />　その上に、金に近い明るい髪、着崩された服、端正な顔に、不良じみた振舞い。だが時折注意される彼の髪色は、実は天然の色なのではないかと、俺は思っている。アッシュがかったその色合いが変わっているのを見たことがないし、瞳の色もごく薄い茶色だ。どこか神秘性を秘めて、軽薄さをも帯びた。それが彼の人間性に合っていた。<br />　そう、裕也こそ女によくモテる。それもそこらの女子じゃない、本物の“オンナ”って感じの奴に。本物の遊び人だ。言い寄る女は数知れず。<br />　ふいに、カツッ！　と、机の横に鉄製の小さな棒が刺さった。棒手手裏剣だ。<br />　横後ろを見ると、裕也がニッと笑って棒手裏剣をペンのように回していた。<br />「見てんなよ、エッチ」<br />　俺は脱力して、思わず顔が崩れてしまった。刺さっていた棒手裏剣を抜いて投げ返す。後ろで小気味よく、木の板に刺さる音が聞こえる。<br />　ったく、物騒な奴。<br />　とはいえ、多分他人からは気難しく見えるだろう俺にも、裕也はいつも明るいオープンな笑顔で、気兼ねなく話しかけてくる。<br />　……こんな風にはなれないと思う。良くも悪くも。<br /><br />　休み時間になると、廊下側の窓枠にしなだれかかる、きつい化粧の大人っぽい女子――いやオンナがいた。<br />「ねえ、ちょっと来てよ」<br />　もちろん、裕也の相手だ。裕也は軽く目をやると、飄々と歩いて行って、窓枠に座った。<br />　口説かれているのか、口説いているのかわからないような光景が繰り広げられる。遠巻きにクラスメイト達が、嫉妬とも羨望ともつかない眼差しで、ひそひそと噂する。俺には関係ないことだ。裕也の数ある女にまで、いちいち干渉していない。ただ、かなりの数の女と妖しい関係なのはわかる。そんなことして何になるっていうんだ？　俺にはわかんねえよっ。<br /><br />　教師の呼び出しにはほぼ応じたことはない。<br />　けれど、俺は放課後の校舎を散歩しながら、保健室に向かう。あの保険医、糸真弓といった……が、夢の中の女性と、容姿から微笑い方から、全く同じなのが気になったからだ。まあこうやって広大な敷地をさ迷っているのは別の理由があるのだけれど、本を読みながら歩いていたら、俺は来たことのない建物にまで足を踏み入れてしまったようだ。<br />　そこは古い、大部屋の連なった日本家屋だった。縁側を歩きながら、水の流れる古びた庭園が見える。大きな校舎からは、少しはなれになっている。美術とか、家庭科、英会話まで、ほか特殊な一般教養の授業で使われる棟だから、俺にはまるで馴染みがない。<br />　部屋から言い合う声が聞こえたので、俺はすり足で止まった。殺気にも近い。手は自然に剣の柄を掴み、襖戸に張り付くようにして、俺は部屋の中を見た。<br />　茜さす広い畳の室内にあったのは、裕也の姿だった。<br />　俺は思わず驚いて身を引き、襖の裏に隠れた。そっと、息をひそめて顔を出す。<br />　裕也と対峙していたのは、外国から来た英会話の、若い女教師だった。授業は出ていないがどこかで見たことがある。確かジェシカといったか。長身に、締まりのいい身体。白い肌、澄んだ青緑の瞳に、裕也よりももっと明るい金髪の。<br />　裕也は睨みつけたまま食ってかからんばかりに、でも一歩も動かなかった。<br />「なんでなんだよ」<br />　裕也は泣きそうな目で訴えるように、顔をくしゃくしゃにした。<br />「なんで俺じゃだめなんだ？」<br />　俺は息を呑んだ。こんな裕也は知らない。こんな、傷ついた子供のような。<br />「Sorry,I …………」<br />　外国人女性の先生は、何を言っているのかわからなかった。英会話の授業も出ておけばよかったと思う。ただ、裕也が悲痛な表情でうつむいているのはわかった。<br />　裕也の拳が握られ、震えだし、張りつめた緊張が臨界点に達した時に。　<br />　裕也が走り出す前に、俺が逃げ出していた。影をぬうように、最高速度で校舎、庭内を駆け抜ける。<br />　なんでだ？<br />　いつも自身満々の裕也。女とたくさん遊んでいる裕也。俺を助けて、笑いかけてくれる裕也。その裕也が……<br /><br />　俺は走って走って、気がつけば深い森の奥の庭園にいた。<br />　来たことのない場所だ。いつかの夢の続きだろうか？　いや、広い校内には俺の未踏の地も多いだろう。<br />　混乱した頭で考える。静かな、水琴窟めいた音。小さな和装建築から続く、ひっそりと建つ庵。ここは茶室だ。<br />　茶道科の教室だろう。俺はとっさに、大きな石灯篭の陰に身を隠した。<br />　そう、なぜ俺が校内をさ迷っていたのか白状しなければならない。茶道科の……阿佐加友美の居場所を探していたからだ。<br />　そして、なんで、こんな偶然が起こるのかわからない。目の前には、古い木の引き戸を開けて出てきた阿佐加友美、サンがいたのだ。<br />　俺は動悸が激しく脈打ち、必死に辺りの庭を見回した。誰かに見られていないだろうか。こんなところに隠れて、俺はなんて馬鹿なことをしているんだろう？<br />　彼女はいつかの深い緑の和風装束に身を包み（制服なんだから当たり前だが）、華奢な首を傾げてさらさらの美しく束ねた髪を揺らし、柔らかく微笑んだ。<br />　けれど、手前には、覆い隠すように立っている、見たことのある大きな体があった。同じクラスの――そう、野球部のエース、壮田流星だった。<br />　彼はぶっきらぼうを装いながら軽く挨拶し、筋肉質な体を落ち着きなく揺らして、チラチラと彼女の様子をうかがっている。<br />　しかも彼女、阿佐加友美は、壮田のごつごつした手を細い指でしっとりと包むように、お菓子のようなものを渡したのだ！<br />　壮田は嬉しそうに、でも控え目な声で彼女に訊ねた。<br />「今日は何時に終わるの？」<br />「さあ、いつもと同じ６限目で終わると思うけど。野球部は今日も夕方まで練習でしょ？」<br />「そっか」<br />　壮田は寂しそうな横顔で、目を伏せて笑った。<br />　彼女は笑顔で手を振り、茶室の中へと消えていった。壮田はしばらく戸の前で板の奥の方を見つめた後、廊下を歩き去って行った。<br />　俺は耐えられなかった。俺よりも彼女の近くで見つめる奴の熱い目に。壮田の気持ちがなぜか凄くわかって、胸がきゅうっと引き千切れそうになる。彼女に渡そうと思って握りしめていた本が、汗に濡れて震えた。嫉妬、しているんだ、俺。<br /><br />　もう走る元気はなかった。俺はなんだかもう、抜け殻になって、そこに病魔が入り込んでしまったみたいに、とぼとぼと歩いた。剣もただ重く、引きずるように。そうして身も心もぼろきれのようになった頃、必然というべきか、保健室へと、辿り着いた。<br /><br />　力む腕で扉を空けると、そこにはテーブル前のイスに、高く足を組んで鎮座している、糸真弓先生がいた。<br />「あら、いらっしゃい」<br />　俺の様子を見て、少し驚いたように視線を巡らせ、最後はやはり、艶やかな微笑みを浮かべた。<br />「待ってたのよ」<br />　俺は無言で絨毯の上に入り込み、無遠慮に――気を遣う余裕がなかった――奥までベッドを見回した。<br />「あいつはいませんね」<br />　あいつとは流れ球を食らって倒れた奴のことだ。確かあいつを見舞えと言われて来たのではなかったか。<br />「２年ろ組、山田君ね。彼なら自力で帰ったわ。あなた、少し遅かったみたいね」<br />「そうですか」<br />　俺は急に疲労に襲われて、小さな診察イスにどっかり座り、うなだれたまま動けなくなってしまった。その俺を真弓先生は見つめ、そっと、囁いた。<br />「教えてあげましょうか」<br />「え」<br />　俺は勢いよく起き上った。目がぴしりと真弓先生と合って、緊張に固まる。<br />　彼女は白衣に包んだ豊満な体をイスから持ち上げ、ゆっくり俺の眼の奥を覗きこんだ。しっとりと温かいラベンダーの香りが迫る。<br />「あなた……」<br />　その時俺は、この女性に何を言われるか分かる気がした。<br />「恋をしているわね？」<br />　バレた。<br />　俺は倒れるようにのけ反った。イスを滑らせ１０メートルほど後退したい気持ちだった。<br />「い、いや……」<br />「色男の沖本クン。普段はクールで気骨のある剣士、その実は人を寄せ付けないで恋に戸惑ううぶな少年ってとこね」<br />　真弓先生は巻いた毛先を細い指で弄びながら、いたずらっぽく俺を見つめた。<br />「で、何かあったんでしょう？　……いいえ、何もなかったのかしら？　それで遅れて来たんでしょう？」<br />　なんでそんなことがわかるんだ。俺はくらくらと眩暈がするような、とろけるような混乱に襲われた。<br />「言ってみなさい、良いこと、教えてア・ゲ・ル、わ」<br />　俺は怪我をした子狐のように従順に、この美人保険医を信じるしかなかったのかもしれない。<br />　古い日本建築の校舎の中にあって、最新設備のこの保健室が、俺にとって現実とは離れた異世界のようにも思わせる。まるで夢の中みたいに……<br />　そうして俺は、あの日古書室で出会った彼女のこと、親友の裕也が英語の教師にフラれるのを見たこと、同じクラスの野球部のエースが茶道科の彼女と会っていたことを、溢れる思いが口を割り、するすると話してしまった。<br /><br />　外はもう夕方になっていた。<br />「なるほどね、あなた、現実を見て、そして逃げ出したのね」<br />　窓からの夕陽を逆光に立つ真弓先生を見上げて、俺はびくりと肩が震えた。<br />「つまり、あなたが知らなかっただけで、友達の裕也クンも、壮田クンも、ちゃあんと恋をしていたのよ」<br />　そう、それが少なからず……いやとてもショックだった。俺のしないことを、彼らはしている。本気の、自分をぶつける恋。そして彼女は……阿佐加友美、サンの気持は分からないけれど。<br />「あなたは、なぁんにも、分かっちゃいなかったのよ」<br />　その通り過ぎて、反論の余地もなかった。そう、俺の逃げていたことに、あいつらはちゃんと立ち向かっていたんだ。それも、もう何歩も前に進んで。<br />　俺は昔から、男子達の、あいつは顔がいいもんな、とか運動ができるから、といったよくわからない嫉妬や羨望と、女子達の王子様を見るような幻想、なんで振り向いてくれないのといった変な愛憎、誤解の集中砲火の中で、逃げ出して、剣の道に進むことしか考えなかった。そこに本当の自分を見出そうとしたんだ。<br />　この孤独を、この苦痛をわかってくれる人は、裕也だけだと思っていた。金色の髪の、武術に長けた孤高の王者。女は遊ぶが寄せ付けない。その裕也が、あんな……<br />　真弓先生は細い指先で、ぼうやだから、ね、と俺の鼻の頭を突いた。<br />「びっくりしたでしょ？　怖かったでしょ？」<br />　真弓先生の指が、針のようにチクリと心に刺さり、遠い記憶が思い起こされる。<br />　幼稚園の時、同じ組の女の子に、好きだと言ったら大泣きして、あたし先生と結婚するのに～と言われた。<br />「それはそうよね、今まで目を背けてきた現実を、突き付けられたんだから」<br />　凄みをもって、真弓先生の大きな（失敬）体が近づいてくる。俺の後ろには後ずさる隙間もなくて、両の頬を温かい掌で覆われる。優しい花の匂いに包まれ、目の前に、強く深く潤い、澄んだ漆黒の瞳があった。<br />　が、急に引き離されたかと思うと、丸イスごと回転して倒れこむ俺を尻目に、真弓先生がびしりと指をさした。<br />「あなたのレンアイの点数は、ないわ。強いて言うなら、あなたの恋は、－０点 よ」<br />「ええっ、マイナス、ですか」<br />　しかも０点だ。俺は倒れた丸イスの横で尻をつき、情けなく見上げるしかなかった。<br />　茫然とした俺を頭上から見下ろすのは、冷然とした微笑みだった。<br />「自分で考えてみるのね。ここからどう行動すべきか……」<br />　俺は前に進まねばならなかった。<br /><br />　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（弟３話、完！） ]]>
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<title>西日本武道高校・健闘記 ②　　　ｂｙ 夜白木</title>
<description> 第２話『出会い』昇り始めた陽光の暖かさに和みながら、学校へと向かう。いつも通りの朝。いつもと違うのは思考に集中をしているということだろうか。わからないんだ。昨日のことが夢だったのか現であったのか。考えつつも、表面には出さずに歩く。生徒達はそれぞれ話しながら、ふざけながら、あるいは勉強をしながら、思い思いに歩いている。少し手前にいる女子生徒は集団になっていた。――「いい？皆で一緒に行くよ」――「もちろん
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<![CDATA[ 第２話『出会い』<br /><br /><br /><br />昇り始めた陽光の暖かさに和みながら、学校へと向かう。<br />いつも通りの朝。<br />いつもと違うのは思考に集中をしているということだろうか。<br /><br />わからないんだ。<br />昨日のことが夢だったのか現であったのか。<br /><br />考えつつも、表面には出さずに歩く。<br />生徒達はそれぞれ話しながら、ふざけながら、あるいは勉強をしながら、思い思いに歩いている。少し手前にいる女子生徒は集団になっていた。<br />――「いい？皆で一緒に行くよ」<br />――「もちろん」<br />何を言っているのかは聞き取れなかったが、気合いを入れているように見えた。<br /><br />「せーの」<br />「「「沖本先輩、おはようございます!!」」」<br />「…………はよ」<br /><br />短いが返事を返すと、きゃー、と彼女達は走って立ち去っていった。<br />さっぱり理解できない。首をひねりながらも校内に入り、下駄箱から靴を取り出す。<br />同時に、入っていた手紙がひらりと落ちた。<br />それをひょいとつまみあげ、後ろにいた男子生徒が感心したように話し掛ける。<br /><br />「相変わらず人気だな、”沖本先輩”」<br />「野上。…見てたのか？」<br />「目撃者は不特定多数、だろ？」<br />「まぁ、な」<br /><br />朝にあんなにも気合いの入った挨拶をされたのには驚いた。<br />先輩、と呼ぶからには後輩なのだろう彼女達。一人として顔を認識できる者がいないのは、申し訳ない限りだ。<br /><br />「沖本も大変だな」<br />笑いながら手紙を手渡される。<br />金髪に近い、明るい髪色をした彼の名は、<ruby><rb>野上裕也</rb><rp>（</rp><rt>のがみゆうや</rt><rp>）</rp></ruby>。<br />服装や風紀には比較的寛大な校風であるが、その中でも彼は一際目立っていた。<br />ズボンにチェーンをいくつかぶら下げ、学ランのボタンを一つ二つあけて。容姿が整っているためか、学校指定の制服を適度に着くずしているのがなんとも様になっていた。<br />服装を含め、風紀の面見た目が俺と正反対だから一緒にいると不思議な顔をされるが、気の合う友人である。<br />毎朝きちんと登校するくせに授業はよくサボる、という訳のわからない仲間でもある。<br /><br />「話したこともないのによく書けるなぁ」<br />手紙の差出人を確認して、感心したように呟く。<br />「何だ、沖本は一目惚れとかしたことねぇの？」<br />「一目惚れ、なぁ……」<br />思い浮かぶのは昨日の彼女。<br /><br /><br /><br />古書室での出来事。<br /><br />『あ、ご、ごめんっ』<br /><br />自分が一生徒、それも女性に剣を向けてしまったと理解して、慌てて鞘におさめた。<br />『いえ、こちらこそ。ノックもせずにごめんなさい』<br />『あ、いや…』<br />透き通るようなソプラノの声で謝罪され、どう答えるべきか少し迷う。<br />ノックも何も、ここは誰でも自由に出入り出来る部屋だ。ただ、普通に資料や読み物を探すならば図書館棟に入っている立派な図書館を利用するのが一般で、使用者が滅多にいないだけで。<br />だからこうして俺が入り浸れるわけだけど。<br /><br />『探しもの？』<br />『はい。歴史の……』<br />声が途切れる。彼女の視線の先を辿ると、暇潰しにぱらりとめくっていた本があった。<br />『いえ、何でもないです』<br />『ちょっと、君…』<br />身をひるがえそうとする彼女を呼び止めるべく声を掛ける。<br />『あ、私１年の<ruby><rb>阿佐加</rb><rp>（</rp><rt>あさか</rt><rp>）</rp></ruby>といいます。<br />もしかしたらまたお邪魔してしまうかも…。失礼します』<br />それだけ言うとぺこりと頭を下げ、彼女は立ち去った。あっという間の出来事だった。<br /><br /><br />あの本は開いていただけなので、必要としている彼女に渡したい。だがクラスも<br />わからない。<br />一つ一つ探していくのも変だよなぁ。<br />でも彼女を見つけて、昨日の事が現実だと確信したい自分もいた。<br />はぁ。<br /><br />思い悩んでいると、裕也がからかうように笑んだ。<br />「お、思い当たることがありそうだな？」<br />「なっ、違う！」<br />「意外だな。そっかそっか」<br />否定するが、それを信じる気はないらしい。もういい。諦めて教室のドアをがらりと開けた。<br /><br />と、かなりのスピードで顔面に向かって白い物体が飛んできた。<br />俺は反射的に愛刀を袋から取り出し、振るう。見事に物体が真っ二つになって落ちた。<br />硬式の野球ボールだ。<br /><br />「沖本すげえ！」<br />「俺のボールがっ」<br />綺麗に半分になったボールを見て、クラスの奴らが騒ぐ。女子はキャーと歓声をあげた。<br />ただ一人、嘆いているのは野球部のエース。犯人は断言できる。彼だ。<br />「危ないな」<br />「お前もあんまり変わんねぇよ」<br />呟くと、裕也にぼそりと言われた。<br />そうか？<br />まぁこういった事は日常茶飯事なんだから気にする必要はないだろう。<br />野球部の奴も事前に相手を確認しているはずだ。<br /><br />「おい、大丈夫か？」<br />「そろそろ起きれるか？」<br />…という訳でもなかったらしい。声のする方を見ると、額に大きなこぶを作った<br />男子が倒れていた。<br /><br />「誰か、保健医を──」<br />「呼んだ？」<br />現れたのはウェーブ髪のすっきりとした顔立ちの女性。一言で言うと、美人。<br />彼女が現れたことでクラスの男子が騒がしくなった。白衣を着ていることと状況<br />から察するにクラスの誰かが呼びに行った保健医。<br />でも、この学校の保健医は男性だった気がする。<br /><br />「…誰だ？」<br />ぼそりと裕也に聞くと、真剣に驚かれた。<br />「真弓先生だよ。新しく来た先生。知らないのか？」<br />フルネームは糸真弓。苗字でなく名前で呼んでいるのは、本人がそう希望したかららしい。細いウエストに白衣が何とも似合っている。ウエストは何と５８なんだとか。<br />裕也が事細かく説明してくれる。どこで仕入れるんだよ、そんな情報。<br />クラスメートの額を冷やす”真弓先生”をじっと見る。<br />名前を聞いても聞き覚えはない。知らない、はずだ。だが、どこかで会った事があるような気もする。<br />何処だ？<br />あれは新しい記憶。確かつい最近。<br />そうだ、昨日の夢。───夢？<br />思い出してしまって、頬に熱が集まるのが自分でわかる。<br />俺の顔は見事に朱に染まっていた。<br /><br /><br />　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（第二話　完） ]]>
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